吾輩は猫である。
名前は『てん君』。
と皆そのように呼ぶ、という事は前話ですでに申し上げたので
今更言うまでもない。
今日は吾輩の主人の大好物のおかげで大失敗した話をしようと思ふ。
吾輩の主人は甘い物が大変好きである、
この前シルベーヌという洋菓子を主人が買ってきた。
主人は袋を開けシルベーヌを口にほおばる。
よほどうまいのか次から次へと、
袋を開けては口にほおばり、ほおばっては袋を開け、
あれよあれよという間に17個入りのチョコレート洋菓子はなくなってしまった。
吾輩もチョコレートが好きなので、
わずかな希望をもって袋の中を覗き込んだのだが、
やはり中には一粒の残りも何もなかった。
しかし、吾輩はこのビニール袋のシャカシャカした感じが
たまらなく好きなのでこれはこれで良しと思うよりほかはない。
だがせんだってにおいては、この何でもかぶってしまう癖があだとなった。
駄菓子が入っている透明のプラスチック製の容器が主人の書斎にあるのだが
そのふたが、なんとその日は開いていたのである。
吾輩はその夜主人が寝静まったころを見計らって
その容器に頭を突っ込んだのである。
容器の最後まですべて舐めきった後でいざ頭を抜こうと思ったら
抜けなくなってしまったのである。
吾輩はどうにかこうにか主人の寝床まで歩いて、
それに気づいた主人に引っこ抜いてもらって事なきを得たことがあった。
主人は大変心配しそれ以降は蓋はしっかりとしまったままなのだが、
またあの容器をかぶりたい気持ちは心の奥でまだくすぶっているのである。